2016.10.19
ボブ・ディラン、ベートーヴェン、ハンス・ペーター・シュミッツ
奥原由子
今、ボブ・ディランが注目されてる。
かつて『風に吹かれて』はショックだった。
こんな重たい内容を、こんなに軽やかに表現できるなんて!
歌詞も音楽も声も歌い口も。
彼の歌は、私たちが心の中に整理もできずに溜め込んで、ザワザワしているものに届き、ふわふわっと包み込んでくれた。
ベートーヴェンの有名な言葉、
「心から出たものだけが心に届く」
を思い出す。ボブ・ディランの歌は、自己顕示欲でもウケ狙いでもなく、誠実な心から流れ出たものだから、私たちの心に届いたのだろう。
彼は私たちと同じ時代、同じ空気の中に生きて、しかも自分で発信しているから、その歌はすごく説得力がある。
レッスン時、恩師ハンス・ペーター・シュミッツ先生はおっしゃっていた。
「この音楽は、今、ここで、私の心から生まれてきました。
という演奏を目指しなさい。」
えっ、私たちが吹いている音楽は、昔の人たちが楽譜に書き残したものですよ。
どうするんですか!
でも、なんとかしなくては!
その昔の人たちは、時空を超えて私の心を揺り動かしに来てしまうんだから。
ここはもう、
「何が言いたかったのですか。
どう言って欲しかったのですか。」
と繰り返し尋ね、耳を澄まして彼らの答えをジーッと待つしかない。
そこでまた、ボブ・ディランに登場してもらう。