2023.07.13
フィガロとドン・ジョヴァンニ
奥原由子
6月の掲示板に、ドン・ジョヴァンニは嫌いと書きました。
あんなに素晴らしい「フィガロの結婚」の後何故ドンファンなんかを主人公にした暗い曲を作曲したのか理解できなかったんです。
でも、今回のシュトゥッツマン指揮メトロポリタンオペラの上演を観て目から鱗でした。
ベルリン在住時代、「フィガロの結婚」が上演される日は朝からソワソワ。
何回観ても序曲が始まると心臓ドキドキ頭クラクラ息も絶え絶え。
もちろん口は押さえてましたが、キャー、くらいの興奮!
モーツァルトの音楽は、強さも弱さも合わせ持った様々な登場人物一人ひとりを、愛に溢れた眼差しで生き生きと描き出します。それも、一瞬たりとも目も耳も離せないスピードで!
滑稽な泣き笑いの人間模様がドタバタと賑やかに展開した最後突然訪れる静寂。
家来達皆の前で、ヤンチャな殿様がひざまづき奥方に赦しを乞うのです。
それを受け、奥方が赦した瞬間に立ち上る「赦しの響き!」。まるで天国から響いてくるかの音楽!
私、これに中毒していたらしいです。
それと真逆に、ドン・ジョヴァンニは最後まで謝らないから、凄まじい音楽と共に地獄に引き込まれます。
この響きが嫌だったんですよ!
でも今回の演出と演奏で、彼にも「赦される」チャンスは複数回あったのだと気付かされました。「救い」の音楽は立ち上っていたんです。
並外れた生命力に溢れたドン・ジョヴァンニに翻弄され、登場人物たちは弱さを露呈させられ行き違い非難し合います。しかし彼が去った後、お互いを「赦し合い」ます。
「赦し」の音楽はちゃんとしっかり立ち上っていたんですよ!
私もドン・ジョヴァンニの被害に遭っていたらしい!
思えば、シェイクスピアの昔から、人間の幸福のキーワードは「赦し合い」。
モーツァルトはそれを音楽で見事に表現していたんですね。
それも、たっぷりの「愛」で満たして!