2023.05.11
モーツァルト作曲 協奏曲KV.299 第1楽章より
奥原由子
2月3月お聴きいただいた曲はモーツァルト晩年(と言っても30才そこそこ)の作でしたが、今回は20才そこそこの作。フレッシュな若々しさが鳴り響きます。
天才にとっての10年の密度は、凡人の何百年よりずーっと濃いんでしょうね。
信じられない程深みを増した晩年の作と、改めて聴き比べてみるのも一興かと。
もちろん、若い時からの前向きなエネルギーは生涯目減りしてません、大丈夫!
21才で新しい活躍の場を求め、故郷を飛び出したモーツァルト。しかし、かつて神童を拍手喝采で歓迎した宮廷ですが、大人になった天才は受け入れません。
次の街に向かう費用にも事欠く彼に作曲の注文をしたのは、アマチュアのフルート奏者。カルテット4曲、ソロの協奏曲2曲、そしてこのフルートとハープの協奏曲が生まれました。
私達フルートを吹く者にとっては奇跡の瞬間です。正に神の采配!感謝です。
さてこの曲ですが、窮地に立った人間から生まれ出たとは思えない明るさです。
大空に両手を広げて深呼吸するような清々しさ!
途中、下を向いたり、後ろを振り返ったりする響きも聴こえますが、再び前を向いて生き生きと進み始めます。
おかげで、この曲を吹くたびに「うん、大丈夫!」いう気分にしてもらえます。
2023.04.04
モーツァルト作曲
四つの歌メドレー オペラ《フィガロの結婚》《魔笛》より
奥原由子
1、もう飛ぶまいぞ、この蝶々《フィガロの結婚》
先月ご紹介の、公開されると市民が詰めかけ、彼らが口ずさむメロディが街中で聴こえたという曲がこれ。主人公フィガロが、周囲の女性皆に恋してしまう情熱過多だが憎めない青年をからかって歌う曲。
2、なんて素敵な鈴の音だ《魔笛》
モーツァルト最後のオペラ。俗っぽいチョイ悪な登場人物が、美しい鈴の音に心奪われ毒気を抜かれ、「何だこれは???」と歌う。音楽の魔法!
3、妙なる響きのたくましさ《魔笛》
主人公の王子は、魔法のフルートに支えられながら試練を乗り越え、愛と真理を求めて修行します。努力すればより良い明日は必ず開ける、と信じて進む青年の爽やかな気概が響きます。こんな音楽が、死を目前にした衰弱しきった人から生まれたなんて奇跡です!
4、おれは陽気な鳥刺し《魔笛》
パンフルートを吹きながらこの曲を歌うのは鳥捕り。王子と対照的に、修行も孤独も苦手。希望は、美味しいご馳走と可愛い奥さん。子供の頃から修行に明け暮れたモーツァルトの憧れの人生?。また自画像とも言われています。
ヨーロッパでは古くから、愛や希望のシンボルとして鳥が登場します。モーツァルトは天に帰る直前まで私達に愛や希望を届けようとしたのでしょうか。
2023.03.01
モーツァルト作曲 フィガロの結婚序曲
奥原由子
草木も芽吹き、人も新しい事に遭遇する季節が来ましたね。
モーツァルトもこのオペラで新しい世界の幕を開けました。
この序曲、その喜びが「ジャーン、始まり始まりー!」と飛び出します。
それまで彼の音楽のマーケットは、否が応でも王侯貴族でした。
ですが、このオペラを待っていたのは庶民!
しかも、内容が…
封建時代真っ只中にあって、浮気者の殿様に奥方と家来達が一丸となってお灸を据えるというもの!
モーツァルト、採算度外視で嬉嬉としてのめり込みます。
天才のスーパーパワー炸裂です。
登場人物一人一人の泣き笑いが、生き生きと音楽になって立ち上ります。
それらが滑稽に絡み合い、ドタバタクルクル展開され、観客の目も耳も釘付けにします。
最後、殿様は跪いて謝り、奥方のアリア、全てを許し温かく包み込む「至高の愛」の音楽が響きます。光に打たれたような一瞬の後、全員が唱和し幕が降ります。
公開されると市民が詰めかけ、彼らが口ずさむメロディが街中で聴こえたそうです。モーツァルト、大喜び!
来月は、そのメロディお聴きいただきます。
2023.02.01
j.シュトラウス作曲 春の声
奥原由子
希望の春を呼びたい時はやっぱりこの曲。
いつ聴いても、フレッシュな希望と明るい幸福感をもらえる曲ですよね。
若々しいこの曲ですが、生み出したのは何と、58才のシュトラウスと71才の巨匠リストです。
二人の中高年は、あるパーティで顔を合わせ、遊びながら作ってしまったのがこの曲だそうです。
後日、このメロディに触発された友人の脚本家ジュネが歌詞をつけます。
「春が来て、ヒバリは空高く舞い上がり、万物に生命が蘇り、悩みは皆消えてしまう……」
この素晴らしい巨匠たちの生きた時代も明るいばかりではなく、彼らの人生も順風満帆でもありませんでした。
しかし苦難に出会っても、彼らは前向きな希望を持ち続けました。
その衰えを知らない情熱を支えていたのは、こういう音楽だったんですね。
「今は実現されていないけど、皆の叡智が結集されれば、必ず訪れる明るい希望溢れる春のような世界。」
ひととき、そんなイメージで包み込んでくれる音楽。
ありがたいです。
2023.01.10
モーツァルト作曲 アンダンテ(ピアノ協奏曲21番 第2楽章)
明けましておめでとうございます。
今年はモーツァルトの人気曲で始めたいと思います。
モーツァルトの音楽はとびきり明るくて軽快だから、その中に巧妙に忍ばされた暗い影は聴き逃してしまいがち。
でも、一旦その影の部分を心が察知してしまったらもう大変!気軽に聴き流せなくなってしまうから。
その瞬間から、憂いのない超天才モーツァルトが、私と悲しみを共有してくれる無二の親友になる。
子供時代から職業音楽家として、明るく屈託のない音楽を王侯貴族に納品することを求められ続けたモーツァルト。
人一倍過酷な自身の人生の生きる悲しみを、少しずつ練り込みたいと思い始めるのは当然ですよね。その本音の部分が年と共に膨らんでくるように思います。
このことが、次の時代の幕開けになったのでしょう。音楽を、個人としての意思や気持ちを表現するものにしてくれました。
この曲も、明るい日差しの元、爽やかなそよ風のような響きで始まります。
しかし程なくして黒雲が現れ、刻々と落ち込み始めます。どこまで沈んで
しまうのか心配になる頃、突然垂直に急上昇。太陽が微笑むホッとする世界に戻してくれます。
これが心底優しいモーツァルトです。私たちを暗さの底に置き去りにしません。必ず日向に、いえ、天国まで連れて行ってくれる。
「上を向いて生きようよ。明るい明日は必ず来るよ!」と。
今年こそは、この曲のように地球全体がV字回復、明るい喜びに満たされることを祈るばかりです。
奥原由子