10月の講師演奏曲について
シューベルト作曲 音楽に寄せて
原曲は歌曲です。歌詞は、
「音楽よ、おまえは私がつらく悲しい時、いつも心に暖かい愛の火を灯し、より良い世界、幸せな明日を見せてくれた。音楽よ、ありがとう。」
といった内容。
この歌詞の「音楽よ、」を「シューベルトよ、」にして、彼を讃えたいと思っています。
この気持ちは、私だけでは無いようです。
後世の大作曲家達は愛奏しただけでなく、歌曲をピアノ曲に、ピアノパートをオーケストラに等々編曲までしています。
31年の人生、こんな音楽を紡ぎ出すことしかしなかった、150センチそこそこのチビで生き下手な青年シューベルト。彼を心底愛し、慈しむような編曲ばかりです。
作家コリン・デクスターは、イギリスでは「シャーロック・ホームズ」より人気のある「主任警部モース」に、
「シューベルトを聴くとどうして涙が出るんだろう。」
とつぶやかせています。
音楽評論家の故吉田秀和さんは、
「仕事だからあらゆる音楽を聴くけれど、自分のために聴くのはシューベルト。」
と書いておられました。
先日の「本音トーク」にも書きましたが、ピアニストのグルダは晩年に「即興曲集」をCDに録音し終わり、
「自分がシューベルトなのか、シューベルトが自分なのかもう分からない。これを弾き終わってまだ生きているのが不思議だ。」
とまで書いています。
シューベルトが、熱に浮かされて叫んだ生前最後の言葉は、
「ここは天国じゃないのか。ベートーヴェンが居ないじゃないか。」 だそう。
ベートーヴェンを目標に、本当に全身全霊を音楽に注ぎ込み尽くしていたんですね。
着の身着のまま、雑念の微塵もない心から発信された音楽だから、私たちの心の扉を簡単に開けて、スルスルッと届いてくるんでしょうね。
奥原由子