2017.06.30
7月の講師演奏曲について
ヘンデル作曲 「いとしい愛らしい緑の木陰」(オンブラ・マイ・フ)
鬱陶しいこの時期ですが、木々の瑞々しい緑は、私たちをリフレッシュさせてくれますよね。
今月は、耳からの木陰気分をどうぞ。
この曲は、オペラのアリア。
「いとしい愛らしい緑の木陰、おまえが、こんなにもやさしかったことはなかった……」
と、歌われます。
52歳の作曲者ヘンデルは、無理を重ね、過労で卒中に倒れ、再起不能と言われていました。
しかし強い意志でリハビリし、奇跡的に復帰します。
その後、この曲を初め、深みの増した数々の傑作を生み出します。
これは、私の想像。
精力的で、頑固一徹なヘンデルさんです。遮二無二活動していた若い時は、木陰で憩うなんてことはなかったんじゃないかしら。
病んで、絶望の淵から蘇って初めて、木々の緑が、明るい喜びと幸福感で、優しく満たしてくれるのを感じたんじゃないかしら。
そんなことを考えてしまうほど、この曲からは、深い感動と感謝の気持ちが伝わってきますよね。
あなたは、どんな木の木陰がお好きですか。
ここからは、私事。聞き流してください。
子供の頃から、木の根元に立ち、光で透ける、重なり合った葉っぱを見上げるのが大好きでした。ですが、ベルリン留学の一年目の春、自信を失い、水しか喉に通らない私の目に、葉っぱは暗くくすんで見えたのです。
でも秋からは思い直し、冬中無心に黙々と前進し続けました。
そうしたら、次の春、葉っぱは再びキラキラと輝いてくれました。
この曲を聴く度吹く度に、あの戻ってきた明るい緑を思い出し、ヘンデルさんと一緒にしみじみと喜び合います。
奥原由子