8月の講師演奏曲について
ヴィヴァルディ作曲 ピッコロ協奏曲より第2楽章
去年お聴きいただいた「かわらひわ」は、私たちの心に、カラッと明るい爽やかな風を吹き込んでくれる曲でした。
今回はそれとは逆に、ヴィヴァルディの心の中に引き込まれてしまうような曲です。
ヴィヴァルディは、カチカチの封建時代に、理髪師でヴァイオリニストの父と仕立屋の娘の母の間に生まれます。しかも瀕死の状態だったので、2ヶ月も洗礼が受けられなかったそうです。
その庶民階級のひ弱な坊やが、神学を学び司祭になり、ヴァイオリンの名手に育ち、教会のために名曲を量産して、ローマ教皇に親しく重用されるまでに登りつめます。
一方、世俗の世界でも、90曲も書いたという程オペラが大ヒット。
(信じられない数ですね。)
質量ともに、音楽史上類を見ないほどの領域まで飛翔しました。
ところが晩年、時代の荒波に飲み込まれ、聖俗どちらからも助け舟は来ず、
貧困と失意のうちに異国で没します。葬られた貧民墓地も後に消滅し、彼の音楽も音楽史から消え去ります。
それが、200年後に不死鳥のように蘇り、音楽史上破格のミリオンセラーを記録しています。
後の時代の自由な市民精神を先駆けしたように、常に誇り高く、あくまで自力突破。そして、ゼロか十か、どころか、ゼロか万かのような熱い人生から生み出された高カロリーな彼の音楽。響き渡る生きる喜びも哀しみも、たった今生まれたばかりにように新鮮で、私たちの心をゆさゆさと揺り動かします。
さてこの曲、巨人が小さな笛を手にした時、ピンと張り詰めていた気持ちがフウッと緩み、思わず漏らした溜息のように聴こえます。
夏の宵、ひとときエアコンも灯りも消して、窓を開け、夜風に吹かれながら耳を傾けるのも一興かと。
奥原由子