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今月の講師演奏曲今月の講師演奏曲

シューベルト作曲

「野ばら」

CDアルバム“春の歌”より
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講師演奏曲の解説集講師演奏曲の解説集

2020.04.02

4月の講師演奏曲について

シューベルト作曲 「野ばら」

先月お聴きいただいた「すみれ」同様、今月も可憐な花を愛でる内容ではありません。命懸けの失恋物語です。「すみれ青年」は踏み潰されましたが、「野ばらお嬢さん」はポッキリ折られてしまいます。

歌詞は、同じゲーテ作。
野原に若々しく、朝のように美しい野ばらが咲いていました。
それを見つけた少年は、大喜びで駆け寄り折り取ろうとします。
野ばらは叫びます。
「そんなことしたら棘で刺しますよ。あなたが永遠に私のことを忘れないように」と。
その声は少年には届かず、折り取られてしまいました。

そうです。この2つの物語の違いは、「すみれ青年」が自ら望んで命をかけたのに対し、「野ばらお嬢さん」は抵抗の甲斐なく折り取られてしまうということ。
その違いを深く捉えた二人の天才、モーツァルトとシューベルト。
2曲の聴き比べも興味深いかと思います。

ここからは、名曲「野ばら」を生んだ3人の物語。
21歳の貴族の学生ゲーテは、18歳の牧師の娘、ブロンドのおさげ髪のフリーデリーケと恋に落ちました。しかし1年後、大学を卒業した彼は、彼女に何も言わずに去ってしまいました。残されたうら若い娘さんの心の傷は重傷。彼女は独身のまま、その生涯を終えたそうですから。
後年ゲーテは謝罪するかのように、彼女を賛美するこの詩を書きました。

この詩が、シューベルトの心を捉えたのは18歳の時。
教師の職を捨て、後先構わず、一途にフリーランスの音楽家人生に飛び込んだ頃です。31歳で一文無しのまま世を去ることになる、無謀な決断です。

当時は身分制度の厳しい時代でした。
それぞれの制約の中でしか生きざるを得なかった3人の若者。
共通項は唯一、将来を計算しない純粋な情熱の輝き。(あるいは暴発。)

この「若々しく、朝のように美しい」瞬間を、シューベルトは見事な音楽で、未来永劫に残しました。

痛みの混じったような青春の輝き。言い換えれば、愛おしい無鉄砲。
今日このごろの私にはヤケに眩しい!
奥原由子

2020.03.06

3月の講師演奏曲について

モーツァルト作曲 すみれ

この曲、実は花を愛でる可愛い曲ではなく、青年の完璧な失恋物語です。

歌詞は、恋多き人だったという言葉の天才ゲーテの、すみれに託した恋心の一部始終。それに共感した、音の天才モーツァルトの音楽。
奇跡の出会いの奇跡の一曲!!!
さてこのストーリー、貴方のトキメキの想い出とどのくらい重なるかしら?

歌詞の内容は、
「野にすみれが一輪人知れず咲いていた。それは心を持ったすみれだった。
ある日、羊飼いの娘が足取りも軽く、晴れ晴れと歌いながらやって来る。
それを見たすみれは突然、自分がこの世で一番美しい花でありたいと願う。
そして摘み取られ、たった15分で良いから彼女の胸元を飾りたいと望む。
ああでも、彼女はすみれに気付きもせず、その上踏みつけてしまう!
しかしなんと、すみれは彼女の足の下で死ねることを声高らかに喜びながら息絶える。」

ゲーテの歌詞はここまで。そこにモーツァルトはもう2行、
「かわいそうなすみれ!
だがしかし、それは心を持ったすみれだった。」
と、付け加える。まるで「君のことは絶対に忘れないよ!」と言うように。

そして聴く時のツボ。
歌曲は普通、語られている内容を、全体の雰囲気で表現します。
それと異なりこの曲は、歌詞の一言一言の内容を、メロディやリズムだけでなく、長調と短調で明暗を刻々と変化させながら語っていきます。超特殊!

ここではドイツ語で歌われる歌詞がない分、モーツァルトが音で描いた場面場面を想像を巡らせてお聴きいただくのも一興かと思います。

まず穏やかな日常。それを破る突然の恋心の爆発。熱烈なそして切ない憧れ。天にも昇るような希望。そして命をも奪う程の完璧な失恋。(ジャン!と踏みつけられる音有り。)でもそれは狂喜する程本望だという!
そして、それら全部を優しく見守るモーツァルト。

今回の解説、文字が多過ぎですよね。分かっています。
これが天才の完璧簡潔な作品と、凡才の蛇足の違いですよね。

蛇年の、奥原由子

2020.02.07

2月の講師演奏曲について

モーツァルト作曲 「ロンド」(ピアノ協奏曲第27番より)~「春への憧れ」

ポカポカ陽気の春が待ち遠しいこの時期、こんな曲はいかがでしょう。

モーツァルトは1791年12月5日に亡くなりますが、この協奏曲はそれに先立つ冬の最中、1月5日に完成しています。
それと日を前後して書かれた歌曲「春への憧れ」。この2曲、ジャンルは違いますが、表現しているものは明らかに共通しています。

歌曲「春への憧れ」は幼い少年が語っているスタイルです。
メロディは「ロンド」のテーマとほぼ同じ。 歌詞は、 “5月よ早く来て。冷たい冬はもうごめんだよ。野原で飛び跳ねて遊びたいよ。まず、スミレを咲かせて!小鳥たちも連れてきてよ!お願い!”

ロンド」は、清々しい透明感漂う彼の最後のピアノ協奏曲第27番の終楽章。終始軽やかで、まるで少年の願った春がやってきたかのようです。
彼の弾むようなスキップのリズムで始まり、小鳥が飛び交い、スミレ咲く大地のコーラスが喜ばしく響きます。途中、冬の北風の名残が吹きつけますが、希望が立ち上るように春が呼び戻されます。

これらを作曲した頃の彼は、心身ともに疲れ切っていました。
春を待ち望む少年の願いは、人生に明るい明日を求めるモーツァルトの願いそのまま。
彼はこの希望に満ちた明るい曲達を書くことで、春を、そして気力を呼び戻したかのように、「魔笛」や「レクイエム」など大きな傑作の数々を生み出します。たった一年足らずの間にですよ!!!信じられますか?

彼の明るい音楽には、途中、真っ暗な谷底に引き摺り込まれるような瞬間があります。でも間も無く必ずV字回復して急上昇!明るく前向きな世界、時には天国までも連れて行ってくれます。
実人生でも、それを体現して見せてもらえたように思います。

奥原由子

2020.01.08

1月の試聴曲について

J.シュトラウス作曲 トリッチ・トラッチポルカ

バン! とドアを開けた途端にワッと吹き出してくる音楽と踊り回る靴音と人いきれの渦、そしておしゃべり。
外はどんなに寒くてもここは熱々。喜ばしいエネルギーに満ち溢れています。

トリッチ・トラッッチ は、ペチャクチャおしゃべりという意味だそう。
この曲、途切れなく続く速いテンポの音楽に混じって、様々なキャラクターのおしゃべりや笑い声が聞こえてきます。

皆さんもご一緒にステップを踏み身体を揺らしてご参加ください。
運動不足解消と暖房費の節減、一挙両得のご褒美がもらえます。

そして何より、共に生きる歓びが湧いてきます。

シュトラウスの時代のウィーンは、良いことばかりの夢のような時代ではなかったようです。だからこそ、山も谷も乗り越えて進み続けるのに、友人たちとのこんな時間は大切だったんですね。

奥原由子

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