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講師演奏曲の解説集講師演奏曲の解説集

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2017.09.01

9月の講師演奏曲について

モーツァルト作曲 トルコ行進曲

そろそろ夏を終わらせて、芸術の秋を始めたいですよね。
そんな気分を応援してくれるような曲です。

2月にお聴きいただいた曲は、バッハが当時流行のコーヒーハウスで演奏したと書きました。
そのコーヒーは、ヨーロッパに攻めてきたオスマントルコ軍がもたらしたものでした。彼らはまた、軍楽隊も引き連れてきました。
きっちり整った当時のヨーロッパの音楽とは全く違う、太鼓やシンバルを多用した、素朴だけどエネルギッシュで勇壮活発な音楽に、人々は衝撃を受けたようです。

作曲家たちは、この雰囲気を取り入れた、“トルコ風”の曲を書きました。
モーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」も、トルコが舞台で、全編若々しい活気に満ちています。
今月のトルコ行進曲も、終始ドキドキワクワク、エネルギーが湧き上がってきて、じっとしてはいられないような曲ですよね。

また、私の妄想。
乗馬が好きだったというモーツァルト。駿馬を駆って、スピーディで軽やかな蹄の音や、力強い躍動感を楽しんでいたんじゃ無いかしら。
そんな気分を音楽にしたらこの曲になった。

皆さんは、どんなイメージですか。

奥原由子

2017.08.01

8月の講師演奏曲について

ヴィヴァルディ作曲 ピッコロ協奏曲より第2楽章

去年お聴きいただいた「かわらひわ」は、私たちの心に、カラッと明るい爽やかな風を吹き込んでくれる曲でした。
今回はそれとは逆に、ヴィヴァルディの心の中に引き込まれてしまうような曲です。

ヴィヴァルディは、カチカチの封建時代に、理髪師でヴァイオリニストの父と仕立屋の娘の母の間に生まれます。しかも瀕死の状態だったので、2ヶ月も洗礼が受けられなかったそうです。

その庶民階級のひ弱な坊やが、神学を学び司祭になり、ヴァイオリンの名手に育ち、教会のために名曲を量産して、ローマ教皇に親しく重用されるまでに登りつめます。

一方、世俗の世界でも、90曲も書いたという程オペラが大ヒット。
(信じられない数ですね。)

質量ともに、音楽史上類を見ないほどの領域まで飛翔しました。

ところが晩年、時代の荒波に飲み込まれ、聖俗どちらからも助け舟は来ず、
貧困と失意のうちに異国で没します。葬られた貧民墓地も後に消滅し、彼の音楽も音楽史から消え去ります。

それが、200年後に不死鳥のように蘇り、音楽史上破格のミリオンセラーを記録しています。

後の時代の自由な市民精神を先駆けしたように、常に誇り高く、あくまで自力突破。そして、ゼロか十か、どころか、ゼロか万かのような熱い人生から生み出された高カロリーな彼の音楽。響き渡る生きる喜びも哀しみも、たった今生まれたばかりにように新鮮で、私たちの心をゆさゆさと揺り動かします。

さてこの曲、巨人が小さな笛を手にした時、ピンと張り詰めていた気持ちがフウッと緩み、思わず漏らした溜息のように聴こえます。

夏の宵、ひとときエアコンも灯りも消して、窓を開け、夜風に吹かれながら耳を傾けるのも一興かと。

奥原由子

2017.06.30

7月の講師演奏曲について

ヘンデル作曲 「いとしい愛らしい緑の木陰」(オンブラ・マイ・フ)

鬱陶しいこの時期ですが、木々の瑞々しい緑は、私たちをリフレッシュさせてくれますよね。

今月は、耳からの木陰気分をどうぞ。

この曲は、オペラのアリア。
「いとしい愛らしい緑の木陰、おまえが、こんなにもやさしかったことはなかった……」
と、歌われます。

52歳の作曲者ヘンデルは、無理を重ね、過労で卒中に倒れ、再起不能と言われていました。
しかし強い意志でリハビリし、奇跡的に復帰します。
その後、この曲を初め、深みの増した数々の傑作を生み出します。

これは、私の想像。
精力的で、頑固一徹なヘンデルさんです。遮二無二活動していた若い時は、木陰で憩うなんてことはなかったんじゃないかしら。
病んで、絶望の淵から蘇って初めて、木々の緑が、明るい喜びと幸福感で、優しく満たしてくれるのを感じたんじゃないかしら。

そんなことを考えてしまうほど、この曲からは、深い感動と感謝の気持ちが伝わってきますよね。

あなたは、どんな木の木陰がお好きですか。

ここからは、私事。聞き流してください。
子供の頃から、木の根元に立ち、光で透ける、重なり合った葉っぱを見上げるのが大好きでした。ですが、ベルリン留学の一年目の春、自信を失い、水しか喉に通らない私の目に、葉っぱは暗くくすんで見えたのです。
でも秋からは思い直し、冬中無心に黙々と前進し続けました。
そうしたら、次の春、葉っぱは再びキラキラと輝いてくれました。

この曲を聴く度吹く度に、あの戻ってきた明るい緑を思い出し、ヘンデルさんと一緒にしみじみと喜び合います。

奥原由子

2017.06.01

6月の講師演奏曲について

モーツァルト作曲 「アンダンテ」ピアノ協奏曲21番第2楽章

柔らかな日差しの下、優しいそよ風に乗せた、希望の囁きが聴こえてくるように始まります。
正にモーツァルト。
彼以外、こんな風にフワッと、聴く者の心の扉を開けてくれる音楽は生み出せないでしょう。

しかし間も無く、雲がかかってきます。
ハーモニーは暗い響きを奏で、メロディはどんどん低く下がっていきます。
「ウーーン!」という呻き声まで聴こえてきます。

でもそこで、パッっと重たい黒雲を払いのけ、光明と希望を呼び戻してくれます。
暗闇の中に差し込む光の、言葉にならないほどの喜びを穏やかに響かせる。

これもモーツァルト。

子供の頃から彼の人生は、晴れと嵐の目まぐるしい繰り返し。
それも、普通の人では到底乗り越えられないレベルの。
その中を、常に全身全霊で前に向かってフルスピードで走り抜けた人です。

しかもその間、周囲には明るく優しかったそうです。

この曲は、そんな彼が、自分自身で演奏するために書いたもの。
本音の心の声を聴かせてもらえます。

奥原由子

2017.05.01

5月の講師演奏曲について

シューベルト作曲 「ます」

今月は、爽やかな新緑の木々に囲まれた、澄んだ流れのほとりでのエピソードをお聴きいただきます。

涼やかで喜ばしい水の流れは、とびきり素敵にピアノが表現。
メロディは、スイスイと自由自在に泳ぎ回る若々しい「ます」を表現。

そこへ、ずる賢い漁師が登場。
「ます」は、流れが澄んでいる限り捕まらないはずなのに、彼は水を濁らせて釣り上げてしまいます。
その様子を、音楽はドラマチックに、そして憤慨も込めて表現。

この物語には「若いお嬢さん方、気をつけて。」という寓意も込められているそう。

封建時代に生きた作詞者シューバートの詩は、いずれも自由への憧れを歌っているそうです。

作曲はシューベルト20歳の時。改めて天才のひらめきに驚嘆です。

情景が目に浮かび、水の音も聴こえ、空気も、匂いさえも感じられる音楽。
その上、自由を奪う者に対する、詩人と音楽家の初々しい正義感も伝わってくる。

短い曲に、これほど多くの内容を込められるシューベルトは、やはり奇跡の人だと思います。

では、そのシューベルト青年と共に、美わしの5月をお過ごしください。

奥原由子

2017.04.01

4月の講師演奏曲について

J.シュトラウス作曲「春の声」

いつ聴いても、フレッシュな希望と明るい幸福感をもらえる曲です。

若々しいこの曲ですが、
生み出したのは何と、58才のシュトラウスと71才の巨匠リストです。
先月の「野ばら」が20才前後の若者たちの出会いから生まれたのと対照的ですね。

二人の中高年は、あるパーティで顔を合わせ、遊びながら作ってしまったのがこの曲だそうです。

後日、このメロディに触発された友人の脚本家が歌詞をつけます。
「春が来て、ヒバリは空高く舞い上がり、万物に生命が蘇り、悩みは皆消えてしまう……」

それを、ビアンキという名ソプラノ歌手が初演します。

なんと素敵な大人のネットワークでしょう!

歳を重ねる間、苦難に出会っても、彼らは前向きな希望を持ち続けました。
その衰えを知らない情熱を支えていたのは、こういう音楽だったんですね。

奥原由子

2017.03.01

3月の講師演奏曲について

シューベルト作曲 「野ばら」

今月は、爽やかな酸味のローズヒップティを味わいながら、がおすすめ。

この歌の「野ばら」は、イヌバラという名で、白からピンクの可憐な花を咲かせ、その赤い実がローズヒップだそうです。

この詩の作者はゲーテです。
そして実は、彼は野ばらそのものを愛でて、この詩を書いたのではなかったんだそうです。

21歳の学生ゲーテは、18歳の牧師の娘、ブロンドのおさげ髪のフリーデリーケと恋に落ちました。しかし1年後、大学を卒業した彼は、彼女に何も言わずに去ってしまった。
残された彼女は独身のまま、その生涯を終えたそうです。

清らかな美しい心を深く傷つけてしまった自責の念を、野ばらとそれを無情にも摘み取ってしまう少年の話として残したということです。

やれやれ!なんということでしょう!

でも、彼が「野原に花開いた、若々しく朝のように美しい野ばら」
と表現した、純粋でみずみずしく可憐なフリーデリーケの魂は、後世まで歌い継がれることになります。

それはこの詩が、シューベルトの心をとらえたからです。
当時、正に18歳。
教師の職を捨て、後先構わず、一途にフリーランスの音楽家人生に飛び込むことにした頃です。

少年が思わず引き寄せられる、飾らず気取らないけど初々しく輝く野ばら。
シューベルトは、その魅力をそのまま音で表現しました。
シンプルで弾むような伴奏に乗せた、フレッシュで愛らしいメロディで。

3人の若い命の、目の覚めるような輝きの一瞬が、彼によってこの1曲に結集され、残されたんですね。

眩しいです。

奥原由子

2017.02.01

2月の講師演奏曲について

バッハ作曲 ポロネーズとバディネリ「管弦楽組曲2番」より

寒いですね。
今回は、熱々のコーヒーカップを抱え込みながらお聴きください。

皆さんご存知でした?
当時はヨーロッパにコーヒーが大流行し始めた時代でした。
あの大バッハは、お弟子や息子たちを引き連れて、皆でエッサエッサ楽器も運び込んで、コーヒー店で出前コンサートをやってたんですよ。
この曲は、そのために作曲されたものだそうです。

香ばしいコーヒーの香り漂う居心地の良いカフェで、自分の育てた若者達とニコニコ気楽に合奏するお父さんバッハ。音楽の教科書の、厳しい顔した「音楽の父」のイメージはないですよね。

ひととき目を閉じて、そのカフェに座ってるイメージでお過ごしいただけたらと思います。

奥原由子

2016.12.27

1月の講師演奏曲について

モーツァルト作曲 「キラキラ星変奏曲」

クリスマスも終わったので、少し早めですが、フレッシュに新年を迎える曲をお聴きいただきます。

実はこの変奏曲のテーマ、モーツァルト時代は「キラキラ星」ではなく、
パリで流行していた「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」
というシャンソンなのです。

若い娘さんが、恋人のことをお母さんに打ち明けようとする歌です。
初々しい高揚感!
嬉しいも悲しいも、とにかく話さずにはいられない。

こんな気持ちの表現は、モーツァルトの得意ジャンルです。

単純なメロディから、微笑ましい人生の一大事を生き生きと紡ぎだします。

ウキウキと地に足のつかないような興奮も、メソメソと身も世もない心配も。

それらを言葉無しで!音だけで!

お見事!

ところでこの曲、
子供向けというより、大人の若返りに効き目がありそうでしょ。

2017年もモーツァルトさんに、
固まりがちな私たちの心を、ユッサユッサ揺り動かし、
曇りがちな頭のレーダーをピッカピカに磨いていただきたいですよね。

奥原由子

2016.12.05

12月の講師演奏曲について

シューベルト作曲 「アヴェ・マリア」

クリスマスが近いこの時期、あちこちでこの曲が流れますよね。

どんな悲しみも苦しみも受け止めてくれるという聖母マリア。
画家や彫刻家たちは、彼女の清らかさや温かな慈愛をぜひ表現したいと、
渾身で素晴らしい名作を残しました。

この曲は、シューベルトが響きで描いた聖母マリアの肖像画でしょうか。

100パーセントの信頼を込めた、「マリア様!」という呼びかけに続いて、
心からのお願いを訴えかけるようなメロディ。
人間の祈りの声と共に、清楚で優美な女性像も目に浮かんできます。

その上、なんと、
シューベルトは彼女からのメッセージも表現してくれています!

それが、今回注目していただきたいピアノの響き。

終始途切れなく、柔らかく波打つように続く和音の響き。
それはあたかも、彼女から放射され、静かに届いてくるたっぷりの慈愛。
冬の陽だまりのように、私たちを温かく包み込んでくれる。

短く過酷な人生で、シューベルトが憧れ、求め続けた、
「わかってるわよ、大丈夫、大丈夫。」
という、穏やかな安心感でしょうか。

全世界の人々が、この曲で心を緩めてもらう12月を過ごせたら!!!
と、祈りつつ。

奥原由子

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